ピボットは、前日の高値・安値・終値という3つの数字だけで、その日に意識されやすい価格帯を算出するテクニカル指標です。移動平均線やオシレーターのように滑らかな線が描かれるのではなく、水平の線が何本か引かれるだけという、シンプルな見た目をしています。
計算がわずか3つの数値で完結するため、電卓でも求められる手軽さが特徴です。この記事では、ピボットの計算式を具体的な数字とあわせて確認し、引かれた線をどう使うのか、そしてどんな場面で機能しにくいのかを整理します。ピボットの線も、価格が必ず反応する水準ではありません。その前提で読み進めてください。

ピボットとはどんな指標か
ピボットは、前日の値動きをもとに、その日のサポート(支持)とレジスタンス(抵抗)になりそうな価格帯を算出する指標です。J・ウエルズ・ワイルダー氏が考案したとされ、同じ人物がRSIやATR、DMIといった指標も生み出しています。
「ピボット」は英語で回転軸や支点を意味します。中心となる価格を軸として、上下に対称的な水準が並ぶという構造から名付けられました。日本語では「リアクション・トレンド・システム」とも呼ばれます。
ピボットの計算式
基準となるピボットポイント
すべての計算の出発点になるのが、ピボットポイント(P)です。
P =(前日の高値 + 前日の安値 + 前日の終値)÷ 3
3つの価格の平均です。前日の値動きの重心にあたる価格、と考えると分かりやすいでしょう。
サポートとレジスタンスの計算式
Pを求めたら、そこから上下の水準を計算します。
- R1(第1レジスタンス)= 2P − 前日の安値
- R2(第2レジスタンス)= P + 前日の高値 − 前日の安値
- S1(第1サポート)= 2P − 前日の高値
- S2(第2サポート)= P − 前日の高値 + 前日の安値
- HBOP(ハイブレイクアウトポイント)= 2P − 2 × 前日の安値 + 前日の高値
- LBOP(ローブレイクアウトポイント)= 2P − 2 × 前日の高値 + 前日の安値
実際に計算してみる
前日の高値が150.00円、安値が149.00円、終値が149.80円だったとします。
まずピボットポイントを求めます。(150.00 + 149.00 + 149.80)÷ 3 = 448.80 ÷ 3 = 149.60円です。
| 水準 | 計算 | 価格 |
|---|---|---|
| HBOP | 2×149.60 − 2×149.00 + 150.00 | 151.20円 |
| R2 | 149.60 + 150.00 − 149.00 | 150.60円 |
| R1 | 2×149.60 − 149.00 | 150.20円 |
| P | (150.00+149.00+149.80)÷ 3 | 149.60円 |
| S1 | 2×149.60 − 150.00 | 149.20円 |
| S2 | 149.60 − 150.00 + 149.00 | 148.60円 |
| LBOP | 2×149.60 − 2×150.00 + 149.00 | 148.20円 |
上から順に価格が下がる形で7本の水準が並びます。Pを中心に、上下に3本ずつ線が引かれる構造だと分かれば、あとは各線の役割を覚えるだけです。
線の位置を自分で求めるなら、電卓を手元に置いておくと毎朝の計算がすぐ終わります。

基本的な使い方
S1・S2、R1・R2は反発の目安
価格がS1やS2まで下げてきたら買いの候補、R1やR2まで上げてきたら売りの候補として見る、という逆張り的な使い方が基本とされています。前日の値幅から算出した水準なので、その範囲内で収まるなら反発しやすいという考え方です。
HBOP・LBOPは方向が出たサイン
一方、HBOPを上抜けた場合やLBOPを下抜けた場合は、前日の値幅を大きく超える動きが出ていることになります。この場合は逆張りではなく、動いた方向へついていく順張りの判断に切り替えるとされています。同じ指標の中で逆張りと順張りを切り替える設計になっているのが、ピボットの特徴です。
ピボットポイントは方向感の目安
中心のPより上で推移しているか下で推移しているかで、その日の傾きを判断する使い方もあります。Pより上なら買い方が優勢、下なら売り方が優勢という単純な見方です。
ピボットの線は、前日の3つの数値から機械的に計算されたものです。その価格で実際に注文が集まっているかどうかは別の話であり、まったく反応せずに通過することもあります。線に触れたら反発するという前提は持たず、反発しなかった場合の撤退位置を先に決めておいてください。
FXで使うときの注意点
「前日」の定義が業者ごとに違う
株式市場と違い、為替市場は24時間動いています。そのためどこを1日の区切りとするかが取引会社やチャートツールによって異なります。ニューヨーク市場の終了時刻を基準にする場合が多いとされますが、日本時間の0時を基準にするツールもあります。
区切りが違えば前日の高値・安値・終値も変わり、結果として線の位置がずれます。他の人が示したピボットの水準と自分のチャートが合わない場合、この違いが原因のことがあります。区切りの基準は各社の公式サイトでご確認ください。
日足以外にも応用できる
ピボットは日足だけのものではありません。前週の値動きから週足ベースの水準を求めたり、前月から月足ベースの水準を求めたりすることもできます。長い期間から算出した水準ほど、線の間隔が広くなります。
計算方法にも種類がある
ここで紹介したのは最も一般的な計算式ですが、終値の扱いを変えるデマーク式、始値も加えるウッディー式など、複数の派生形が知られています。どの方式を使っているかで水準は変わるため、ツールの設定を確認しておくと混乱を避けられます。

1日の流れの中でピボットをどう見るか
取引開始時に線の位置を書き出しておく
ピボットの線は、その日の間ずっと同じ位置に固定されます。移動平均線のように刻々と動くわけではないため、1日の始めに7本の価格を書き出しておけば、その日はずっと使えます。チャートを開けない時間帯がある方でも、指値や逆指値の設定に活用しやすい指標です。
書き出す先は、方眼ノートのようにマス目がそろったものだと価格を縦に並べやすくなります。
東京時間とロンドン・ニューヨーク時間で性格が変わる
日本時間の午前中は比較的値動きが落ち着き、前日の値幅の中で推移することが多いとされます。この時間帯はS1やR1での反発を想定した使い方と相性がよいと言われます。
一方、欧州や米国の市場が動き出す時間帯は、取引量が増えて値幅が広がりやすくなります。この時間帯にHBOPやLBOPを抜ける動きが出た場合は、そのまま方向が続くことも増えます。同じ線でも、時間帯によって意味の重みが変わるという点は覚えておきたいところです。
線を抜けた後の動きを見る
R1を上抜けた場合、次に意識されるのはR2です。線を抜けたら、次の線までが当面の値動きの範囲になる、という見方ができます。利益確定の目安を次の線に置く、という使い方をする人もいます。
ただし、抜けた直後にすぐ戻る動きも起こります。抜けたことを確認してから入ると出遅れ、抜ける前に入ると外れる可能性が高くなるという難しさは、どのブレイクアウトの判断にも共通しています。
ピボットが機能しにくい場面
前日と相場環境が変わったとき
ピボットは前日のデータだけで計算されます。そのため、夜間に大きなニュースが出て相場の前提が変わった場合、前日の値動きから算出した水準は意味を持ちにくくなります。
前日の値幅が極端だったとき
前日に大きな値動きがあった日は、線の間隔が非常に広くなります。逆に、前日がほとんど動かなかった日は線が密集し、わずかな動きで複数の線を通過してしまいます。前日の値幅が極端な日は、線の間隔が実際の値動きと噛み合わなくなります。
強いトレンドが続いているとき
一方向へ進み続ける相場では、R1やR2での逆張りは損失につながりやすくなります。HBOPを抜けたら順張りへ切り替えるという設計はこの対策ですが、抜けた直後に戻る動きもあるため、切り替えのタイミング自体が難しい場面もあります。
他の材料との組み合わせ
ピボットの線は水平線なので、自分で引いた水平線や、キリのよい価格、過去に何度も反発した価格帯と重なることがあります。複数の根拠が同じ価格帯に集まっている場所は、より意識されやすいと考えられます。
また、その日の値動きの幅を示すATRと組み合わせて、線と線の間隔が今日の想定値幅に対して広いのか狭いのかを確認する、という使い方もあります。計算式や表示例の詳細は、外為どっとコムの解説や楽天証券のツールヘルプでも確認できます。
なぜ前日の3つの数値だけで水準が出せるのか
ピボットの計算式を見て、「たった3つの数値でいいのか」と疑問に思う方もいるかもしれません。この設計には、それなりの考え方があります。
まず、高値と安値はその日の値動きの範囲を示します。そして終値は、1日の取引が終わった時点で参加者が合意した価格です。範囲と着地点という3つの情報で、その日の相場の性格をおおまかに表現できるという前提に立っています。
R1が「2P − 前日の安値」という形になっているのも、Pを軸として安値を反対側へ折り返した位置、という対称の発想からです。同じようにS1は高値を折り返した位置になります。前日の値幅と同じくらいの幅で今日も動くのではないかという想定が、式の背後にあると考えると理解しやすいでしょう。
この前提が成り立たない日、つまり前日と今日で値動きの大きさがまったく違う日には、線の位置が実際の動きと噛み合わなくなります。指標の限界も、この前提から説明できます。
ワイルダー氏の指標をはじめ、テクニカル指標の考え方をまとめて学びたい方は、テクニカル分析の本も参考になります。
ピボットに関するよくある質問
Q. ピボットは自分で計算しないといけませんか?
A. 多くの取引ツールにはピボットを自動表示する機能があります。ただし、対応の有無や設定できる項目はツールによって異なるため、詳細は各社の公式サイトでご確認ください。計算式自体は単純なので、表計算ソフトで求めることもできます。
Q. どの時間足で表示すればよいですか?
A. 日足ベースのピボットを表示する場合、その日の値動きを見るために5分足から1時間足あたりのチャートに重ねるのが一般的です。日足チャートに日足ベースのピボットを表示しても、線が細かく変わって見づらくなります。
Q. HBOPやLBOPを表示しないツールもありますか?
A. R3・S3という名称で第3の水準まで表示するツールもあり、名前や本数はツールごとに異なります。名称が違っても、Pを中心に上下へ広がる構造は共通しています。
Q. ピボットとフィボナッチはどちらがよいですか?
A. どちらも水平の水準を示す点は共通していますが、ピボットは前日のデータから機械的に決まり、フィボナッチは自分で起点を選びます。誰が計算しても同じ位置になるのがピボットの利点、起点を自分で選べるのがフィボナッチの利点です。併用する人もいます。
Q. 週明けのピボットはどう計算しますか?
A. 前営業日である金曜日のデータを使うのが一般的です。ただし週末に材料が出た場合、月曜の値動きが金曜の水準から離れて始まることがあります。この場合、水準は意識されにくくなります。
Q. ピボットを使えば利益が出ますか?
A. ピボットは判断の目安を与える指標であり、売買結果を保証するものではありません。線を無視して価格が進む場面も普通にあります。FXは価格変動により損失が生じる可能性がある取引です。損切りの設定と資金管理をあわせて行ってください。
まとめ
ピボットは、前日の高値・安値・終値の平均を中心に、上下へ対称的な水準を並べる指標です。計算式は単純で、R1は2P−前日安値、S1は2P−前日高値というように、いずれも四則演算だけで求められます。
使い方の基本は、S1・S2・R1・R2を反発の目安とし、HBOPやLBOPを抜けたら方向が出たと判断して順張りに切り替えるというものです。逆張りと順張りの切り替え基準が指標の中に組み込まれている点が、ピボットの面白いところです。
ただし、為替市場では1日の区切りが取引会社ごとに異なるため、線の位置がずれることがあります。また、前日の値幅が極端だった日や、相場の前提が変わった場面では機能しにくくなります。どのテクニカル指標にも外れる場面があるという前提で、判断材料のひとつとして取り入れていくことをおすすめします。



